放射線治療部門

 当大学医学部附属病院は日本放射線腫瘍学会(JASTRO)認定施設で、専門スタッフ(複数の放射線治療専門医、専門診療放射線技師)が常時勤務し、放射線治療についての十分な診療・教育指導の体制が整っています。また学会の要求する設備・治療内容の基準も満たしています。以下に、当診療科にて提供している、高精度放射線治療・密封小線源永久挿入療法 を紹介いたします。 

頭蓋内病変に対する定位放射線治療

 定位放射線治療とは、病巣周辺の正常組織に重篤な障害を起こすことなく治療効果を高めることを目的に小さい病巣に対して大量の放射線を短期間に集中して照射する特殊な放射線治療で、手術に匹敵するような治療が可能となります。この治療は正確な位置精度が要求されますので、近年の治療技術と画像診断の進歩により初めて可能となりました。具体的には、CT・MRIなどの画像情報をもとに病巣の位置・形状・大きさをコンピューターの3次元座標軸上で正確に決定、精度高く頭部固定をした上で、様々な方向から病巣に集中的に照射を行う高精度放射線治療です。頭蓋内病変に対する定位放射線治療においては、直径3cmぐらいまでの転移性脳腫瘍、動静脈奇形、髄膜腫、聴神経腫瘍などが主な適応になります。当科では1999年より頭蓋内病変に対する定位放射線治療を開始、2016年からは、複数の転移性脳腫瘍を一度に照射する多標的同時定位放射線治療を導入しております。

体幹部病変に対する定位放射線治療

体幹部病変に対しての定位放射線治療は、その優れた治療効果・安全性が国内外から数多く報告され、かつては一部の施設においてのみ高度先進医療として行われていましたが、2004年4月からは保険適応となっています。現在では、早期の原発性肺がん、転移性肺がん、肝がんなどに定位放射線治療が行われており、早期肺がんの局所制御率は90%と手術に匹敵する成績が報告されています。当科では、2003年より肺がんに対して、体幹部定位放射線治療を開始、現在では、肝がん・前立腺がんにも適応を広げております。

強度変調放射線治療(IMRT):Intensity Modulated Radiation Therapy

これまで病巣に放射線を集中させる様々な方法が追究されてきましたが、従来法では、病巣と正常組織が複雑に近接する場合、病巣だけに十分な放射線照射をすることはできませんでした。これを克服するために強度変調放射線治療(Intensity Modulated Radiation Therapy:IMRT)が開発されました。IMRTは、周辺の正常組織に重篤な障害を起こさずに病巣に治癒線量を照射する理想的な最先端の放射線治療です。IMRTは本邦でも2000年頃より先進医療として行われていますが、当科では2002年より限局性前立腺がんに対するIMRTを行っております。現在では、保険医療として、前立腺がん・脳腫瘍・頭頸部がんなど様々な悪性腫瘍へ IMRT を行っております。

密封小線源永久挿入療法(前立腺)

 小さな線源(放射線物質)を病巣に挿入して行う放射線治療が小線源治療です。中でも、密封小線源を前立腺内に複数個埋め込んで前立腺がんを治療する小線源治療(密封小線源永久挿入療法)は既に欧米において確立された治療で、限局性の前立腺がんでは、この密封小線源永久挿入療法や外照射、手術療法が一般的な治療法となっています。密封小線源永久挿入療法は、手術療法と比較して、性機能(勃起能)や尿失禁の問題が少ない、体への負担が軽い、治療期間が短い(4日間の入院)などのメリットがあります。具体的には、下半身麻酔(仙骨麻酔)をした後、肛門より挿入した超音波装置で確認しながら前立腺内に複数の針を穿刺します。次にその針の中を通して非常に弱い放射線(ガンマ線)を出す小線源(長さ4.5mm、直径1mm以下の純チタン製カプセル)を前立腺内に50~100個挿入します。線源の個数、配置は事前の超音波検査で得られた前立腺データ(容積、形状など)より放射線治療医が計画をします。手技終了後に前立腺内に挿入された線源から体外に放出されるガンマ線は非常に弱く、周囲の人に与える影響は殆どありません。実際には自然界で受けている放射線量と比べても低いことがわかっていて、治療後も普段通りの生活が可能です。本邦では2003年から開始され、当科では2005年より泌尿器科と協力して密封小線源永久挿入療法を行っています。2020年からは、直腸スペーサーを全例に導入、より質の高い小線源治療を展開しております。県下では唯一の前立腺小線源治療可能な施設であり、2020年までに1200例を超える治療経験があります。

IVR部門

難治性潰瘍に対するイミペネム/シラスタン(チエナム®)塞栓

 難治性潰瘍には様々な原因がありますが、感染や血管炎、膠原病などの原因がなく、特発性と考えられているものが存在します。その中には、microAVMが原因となっているものがあり、AVMを治療することで、潰瘍が改善していくことが期待できます。これらの塞栓には、microAVMのサイズに適した塞栓物質を用いることが必要ですが、残念ながら市販されている塞栓物質には、適度な大きさのものがありません。しかし、抗生剤であるイミペネム/シラスタン(チエナム®)の粉末が、10-75μmであり、塞栓物質として使用する報告が見受けられます。このサイズは、microAVMの血管径と合致しており、microAVMの塞栓に適していると考えられます。詳細な理由は不明ですが、microAVMを治療することにより、今まで治癒に至らなかった難治性潰瘍が、肉芽形成して治癒することが期待されます。

 当科でも皮膚科の協力のもとで、イミペネム/シラスタンを用いて、microAVMが原因と考えられる難治性潰瘍に対して塞栓を行っており、難治性潰瘍を有する患者さまの治療、日常生活の質の向上に貢献したいと考えています。